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限界耐力法の混迷

 直前のエントリイで、新宿区に続いて札幌市が限界耐力法による再々計算に乗り出したことに関して、「混乱が予想される」と書いた。ところが、その予想は既に警告を発せられていることを8日の夕刊報道で知った。
 既にJSCA(社団法人日本建築構造技術者協会)が、新宿区と札幌の「事件」の前日3月6日に、限界耐力法の利用を推進するかの国土交通省通知に対して、「性急に事を運ぶことは、混乱の一因となる恐れが強く、奨励すべき方法ではない。採用する場合には審査にあたって慎重を期することを強調するべきである。」とする意見書を提出していたのだ。(その提出日から推測するに、まさに新宿・札幌のチェックを終えて公表する直前に提出したと思われる。)
 ★意見書 国住指発第2930 号(平成18 年2 月15 日)に対する意見書
 ★国の限界耐力法利用推進と受け取れる都道府県宛文書
   国住指発第2930 号(平成18 年2 月15 日)


◆意見書の指摘は以下のようになっている。
--------------------------------------------------------
1.限界耐力計算の運用に関する技術的問題
 限界耐力計算の運用に関する問題点は従前より多方面から指摘され、特定行政庁でも慎重な扱いを行っているところが多く、JSCA でも2005 年9 月に問題点として下記の4 点を指摘している。この状況の中、性急に事を運ぶことは、混乱の一因となる恐れが強く、奨励すべき方法ではない。採用する場合には審査にあたって慎重を期することを強調するべきである。
 ① 架構剛性を少なく評価でき、地震力を小さく評価できる
   過小評価の危険性
 ② 極稀に発生する地震時の層間変形を計算できるが、制限値を決めていないので
   非構造体落下等に関連する安全性が担保できないものが多い。
   サッシ等の落下に対する安全性が疎かになりかねない。
 ③ 仕様規定は耐久性規定を除き適用しなくてよいが、代替性能規定がない。
   性能規定チェックが疎かになる。
 ④ 確認申請取り扱い要綱が果たしていた安全性確認との落差
   従来の方法の正当性に疑義が出る。


2.偽装物件の一部の建物のみに限界耐力計算法を用いて検討を行うことの問題
 保有水平耐力計算による検討結果に基づき、すでに取り壊し判断を行った建物との整合性を図ることが難しいと考える。
 また限界耐力計算により、耐震性能が規定値の0.5を上回った場合に取り壊し判断を変えることになるならば、その判断は国、特定行政庁、所有者のいずれが行うのか明確にすべきだと考える。


3.保有水平耐力計算と限界耐力計算の結果の違いについての国民への説明の必要性
 本来は、上記1の調査結果を受けて限界耐力計算の運用の見直しを図る中で、二つの計算法の差異を明快にし、説明していく必要があると考える。しかし、その作業が未了のまま今回の対応を行う場合であっても、異なった結果を生み出す二つの計算法の意味について早急に明快な説明を行うべきと考える。
--------------------------------------------------------
 この意見書の指摘はすこぶる妥当だと思う。既に混乱が始まっているが故に、早急な対応を行わないと混乱は爆発的に広がるだろう。既に結論が出されたはずの、偽装有り+耐震強度不足の全ての建物について、実は別の解答があり得て、しかも限界耐力法で再々計算を行えば"よりましな"結論が得られる可能性が高いと期待されることは、藁にもすがりたい被災者に一抹の希望を与えることは間違いなく、結局何が真実なのか、それを誰が判断するのか、等々収拾の付かない事態を招きかねないだろう。


 それにしても、限界耐力法といい、エネルギー法といい、アメリカからの圧力に屈服して基準法に導入された一連の性能規定化導入の中で採用された手法だ。
 従来の4つの計算手順【高さ20m以下の建物→ルート1(許容応力度法)、20m<高さ≦31m→ルート2(剛性率・偏心率計算)、31m<高さ≦60m→ルート3(保有水平耐力計算)及び性能評定機関に個別認定を受ける必要のある時刻歴応答解析法】の他に、60m以下の建物に対して3つのどのルートにも拠らず限界耐力法又はエネルギー法のいずれかで計算しても良し、とされたのだ。
 しかし、これらの2つの動力学的手法は振動解析論が分かっていなければ理解できない代物であり、設計者も審査者もその運用に苦労しているのが実態らしいのだ。そのような地に足が付かない手法をどうして採用しなければならなかったのだろうか?これらの手法もアメリカからの圧力、あるいはそれを援用した国内のどこかからの圧力によって法制化されたのだろうか?───という猜疑を抱かざるを得ないのである。


 なお、この件に関して国土交通省は「限界耐力の方が、安全性が高いことを示す数値が出る傾向は確かにあり、適切な計算方法を選択して構わない。公的支援については現行の判断基準に変更はない」(建築指導課)としている。(耐震強度、別計算法では「安全」:YOMIURI ONLINE(読売新聞)より)
 現場の混乱を余所にそんな公式回答だけでよいのか!と問いたい。JSCAの意見書に真摯に応えるべきではないだろうか?


 関連エントリ
・ 予想通り札幌は、限界耐力法で再々計算
・ 耐震強度偽装第3局面に突入

 

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